これ書こうとして「はた！」と困ってしまった。「どれを選ぼうか」…。台詞、衣装、ダンスはすんなり決まったのだけど、歌だけはどうも決められなかった。決して好きな歌がなかったってわけではないのだけど、どれも抜きんでていたってわけではなかったし…正直に申し上げて「選択に困った」（ブリーザみたい^^;;;;;）あげくの「歌に関するあれこれ」だったりする。なら、やらなきゃいいじゃないか！って言われそうだけど、企画ものゆえ？（ここにかなりの拘りあり）頑張ってやり抜いてみます…。△いったい何曲あったのか▽数えてみたら結局１２曲。うちクライドに関する歌、つまりたあたんの持ち歌が７曲（そのうち２曲はボニーとデュエット）、ジェレミーが２曲、ボニー、テッド、レイモンドが各１曲。ジェレミーの「ＢＬＵＥＳ ＲＥＱＵＩＥＭ」はエンマやジョーンズ（さわりだけだけど）も歌ったし、テッドの「ＴＨＥ ＲＯＯＴ ＳＱＵＡＲＥ ＧＡＮＧ」は、後半はジェレミーが歌った。同じ歌が何度も使われたりしているので「あれ？」と思うことも多い。例えば「♪振り向けばくすんだ街…」で始まる「クライドのテーマ（つまり、タイトルなし）」は、ボニーが１人で歌ったり、デュエットというか掛け合いになったりもしたし、一番わかりやすいところでは「ＢＬＵＥＳ ＲＥＱＵＩＥＭ」が、物語のヤマ場になるとスッと出てきたりする。歌は殆どが１幕に集中していて、２幕は前半にあるだけ。レッド・クラウン荘の襲撃からあとは、２人が死ぬところで「ＢＬＵＥＳ ＲＥＱＵＩＥＭ」が流れるまで歌はまったくない。これはビデオを見てみたら「ないなあ」と思うけど、芝居の内容がギュッと詰まっていたので、それほど気にならない部分である。△音の領域▽クライドの歌は結構低音が多い。特にボニーとハモる夜の街角、とーんでもなく低かった。たあたんは男役としては声質が高い方なので（ドスが利かない、ってわけではない）、ちょっと苦しいかも知れないなあと思ったことがよくあった。一番低いところで下のレくらいまであったように思われる。ちなみに「低ーい」と思ったかの「万朶之桜」の最低音は確か下のミ♭またはレ♯、ちょっと出しにくそうだなっと思った「明日になれば」は下のファくらいである。スカーレットの場合は台詞のトーンに普段よりも高音でしかも女の声を要求されたから出しにくいのは仕方がないとしても、数馬さんよりもクライドの方が音が低いのはちょっと意外。このくらいのキーになると、半音低いだけでもかなり出しにくくなると思われる。じゃあ、上もいつもよりも低いのか、というとこれは全然そうじゃない。いつも並みに高いところまで出している。たあたんの場合、上限は大抵シかシ♭に設定されていることが多い。このあたりが「全然苦しくなく聞こえる高音域」のようである（実際にはそれよりも高い音の歌もあるけど）。この作品でもそのあたりは踏襲されている。「♪たどりついた場所は夜のはざま…」とか「クライドの歌」とかで登場する。よって、この作品ではたあたんは、かなり「広い」音域を要求されたことになる。しかも、半音・変音テンコモリ。これを高橋城先生の「愛のムチ」と言わずして何と言おうか。△三拍子とシンコペーション▽たあたんがラジオやお茶会で言われたように、珍しく？三拍子が多い。「クライドのテーマ」と「クライドの歌」はそろって三拍子。「クライドのテーマ」などはフィナーレナンバーではなんと「ワルツ」になってしまう。いわゆる「ぶんちゃっちゃ、ぶんちゃっちゃ」って感じ(^^;)。おまけに「シンコペーション」なんちゅうのが登場する。「三拍子もシンコペーションも苦手で」というたあたん、聞いている分には全然そんな風に感じないのだが（これが苦手、とはっきりわかっているのが逆に「凄いな」と思ったりする）、口振りからすると「何としても歌いこなせるようになるんだ」って思ってるんだな、という気がした。シンコペーションというのは学校の音楽で習った記憶によると「ひとつの小節で最初の音の長さを１とすると、次の音が２になり、その次の音が１になる」状態。言葉ではちょっと説明しづらいけど（しかしここに楽譜を書くこともできない）、リズムにすると「タ・タン・タ」というのが典型的なパターンである。それからすると、ここで問題になっているのは「♪背けた眼差し 闇に墜ちていく」の部分のことだと思われる。シンコペーションの難しいところは、いつも同じ形で出てくるとは限らないことだ。基本的には上に書いたようなリズムだけど、これにスラー（音同士をつなげる記号）なんかがくっついてくると、もうハチャメチャにややこしくなってしまう。私もかつて「リズムがとれへーん！」とわめきまくった覚えがある。だから、たあたんの言わんとすることが、何となくわかるような気がする。たあたんの言葉からすると、これも城先生の「愛のムチ」のようだ。先生の「どや、歌てみい！」という顔が目に浮かぶようである。名歌手という称号を与えられていながら、彼女も城先生もそれに満足せずに、常にもう一つ上を目指しているということの現れのような気がする。△デュエット・掛け合い▽この作品の場合、クライドだけでなく他の人もデュエットや掛け合いが多い。ジェレミーとビリー、レイモンドとメアリー。クライドも、ボニーの他にネルやアニスと歌っている。ネルとのデュエット？は、歌の技巧としては「ちょっとちょっと」な部分があるけど、姉弟の間のやさしい感情が漂い、なかなかに良い雰囲気だった。また、たあたんのリードがうまかったりするんだ(^^)。アニスとの掛け合い、声の調子としては良く合う。「愛してる」という合いの手（！盆踊りじゃあるまいし^^;;）がまた絶妙だった。ミリちゃんの声って硬質な透明感があるので、こういうのにはうってつけだ（その分、やや大人っぽい歌には向かないけどね）。そして、ボニー。グンちゃんの声は娘役としては低くてやや太い。ゆえにいわゆる中音域に豊かさを感じさせるタイプである。そのせいかもしれないけど、この２人のデュエットはどうもドスが利く(^^;;;;;;)。言い換えれば「ふっっっっとい声」。よく響きあうのだ。だから、ハモるにはちょいと工夫が必要だけど（うまくいったのが「私とあなたは裏表」、下手すると？自滅するのが「キエレメ・ムーチョ」）、ユニゾンとなると強烈に響く。この作品で一番印象的なデュエットはだから「♪出会った誰かの 胸にすがりつき…」。別々に歌っていたのがぴたっとあう瞬間が、何とも快感だった。△歌詞の美しさと表現力▽あんまりここで書きすぎると、いずれ違う観点で「歌を科学する」ときにネタがなくなっちゃう(^^;)。でも、これだけは書いておかねば。この作品の歌の特徴は、歌詞が美しいってところだと思う。それはたあたん自身も「歌詞がとっても素敵で」と言われていた。ただ、いくら素敵な歌詞でも、歌い手にその歌詞を表現するだけの力がなければ台無しになってしまうのだが、その点でもこの作品が恵まれていたのは、歌で感情を表現するって事にかけては右に出る人がいないたあたんの主演で、彼女が歌うだけで歌詞の世界がグッと広がるってこと。そう言えば昔「香寿なら中華料理のメニューをそのまま歌っても、立派に歌として聞かせてしまうだろう」なんて事を読んだことがあるけど（「酢豚」「炒飯」「八宝菜」「麻婆豆腐」ってか…どう反応したらいいんだろう、こういう意見には@_@）、それくらい彼女の表現力は優れているってことだ。特に、初めて人を殺したあとに、誰も見ていないところで心の痛みを歌う「クライドの歌」などは、「揺れ動く心」の表現に優れていた。この場面、青年館で見たときの「逃げるしかなくなった」という感じの歌い方がお気に入りだったので、それが映像に残ってないのはちょっと惜しい。個人的に、歌詞に一番力がこもってるなと思うのは、やはり「ＢＬＵＥＳ ＲＥＱＵＩＥＭ」。歌詞の中に作品の世界観と、作者のクライドとボニーへの思い、歌い手であるジェレミーと観客とが共有しうる２人に対する気持ちが籠もっていて、聞く者の胸を打つ。「♪そんな声で泣かないで 遠く離れても」という歌詞があるが、それはクライドとボニーがジェレミーに対して遺した言葉なのかも知れないなあ、と思う。だから最後にこの曲が出てくるときに、シビちゃんが歌うこのフレーズに、ジェレミーすなわちとうこちゃんが泣いてしまうのも無理はないなあ、って気がした。歌詞の内容からすると仕方がないけど、この歌をたあたんの声で聞いてみたいなあ、いつか叶わないかなあなどと密かに思っていたりする。「１曲にマトを絞れない！」とか何とか思いながら、気が付くといつもよりもたくさん書いていた(^^;;;;;)。これ書くために『ボニクラ』のビデオを延々半日回していたので（テープが伸びそう…）、頭の中はすっかり「荻田ワールド」。でも、そのワールドを力強く支える高橋城先生の力も、このページをこつこつ打ちながら「頼もしいなあ」と改めて思った。そして、その曲を膨らませるたあたんの歌唱力・表現力の凄さも。…いつかまた、この組み合わせの作品に遭遇したいものだ。お詫び：「音の領域」のところで、「万朶之桜」の最低音は確か下のミ♭またはレ♯と書きましたが、正しくは「クライドのテーマ」夜の街角バージョンと同じく下のレ、でした。訂正してお詫びいたしますぅm(_ _)m今後こういう間違いをしでかさないように、キーボード買おうかとか思っております…。