衣装を科学する２

　この衣装、私は毎日お目に掛かっている。って言うのは、デスクトップの壁紙にしているのが、目下のところこの場面なのだ（でへへへ…）。うちのパソ子を起動すると、ぴた！と抱き合ったクライドとボニーが「でーん！」と登場するわけ。夏向きに『ノバ』壁紙もいいかも、とか思うのだが、しばらくは今のままでいこうかな、とか思っている（ちなみに、昨年の今頃はスカーレットの壁紙でした…）。　

『凍てついた明日』の衣装の中で、この白い三つ揃いは着ていた時間が一番短かった。何せ、出てきて、抱き合って、台詞言ったら照明が消える(^^;)。挨拶も含めて、舞台上ではわずか１分ほどだ。ついでにいうとその前も早替わり。確か３分もなかったと思う。その短い時間に、スーツはもちろんだけど、シャツもネクタイも、靴まで変えて、おまけに帽子も黒から白に持ち替えて…そこまでしてなーんで、白を着て出てきたんだろう。

宝塚の作品で、死んだ恋人たちが真っ白い衣装でラストシーンに登場するというのは、結構ありふれた展開である。古くはかの『ベルサイユのばら』アンドレとオスカル編なんちゅうのがあったし、最近では『うたかたの恋』（最近ではないか…）、『エリザベート』が有名。とくに昨年は、バウだけでも『心中・恋の大和路』『Ｅｎｄｌｅｓｓ　Ｌｏｖｅ』と、さながら「悲恋の大安売り」って感があった。実は私、バウの初日にこのラストシーンを見たとき「おいおいー、勘弁してくれよ、これじゃまるで『うたかたの恋』やないかい！」とチラッと思った。当然こういう展開だと、２人は高らかに？愛を歌い上げて終わるというのがセオリーだから（別に、それが悪いわけではないんですけどもぉ…）、それではあまりに安直だろうって。だが、そこは荻田先生、そういう定石通りの終わり方はしない。出てきたと思ったら抱き合ってチョン。何ともあっさり終わるのである。いやー、実にあっけなかった。でも好きだったけど(^^)。

どうしてここで２人は白を着るのか？　そりゃ「死んでしまった」ということの暗示だろう、とは誰しも思うこと。直接的にその死を描かれていなかったので、その代わりに「死んじゃったよ」という意味を込めて、こういう場面にしたのだろうな、と推測できる。内容的に宝塚的でない物語だったといはいえ、あくまでも宝塚の作品、終わり方だけは「それなりに」…。でも、プロローグだって回想から始まる（ボニーは死ぬときと同じ衣装）なんだから、「死」を暗示するだけなら同じ衣装でもおかしいとは思えない。

「歌劇」１月号に掲載された天野道映氏の公演評の中で、この作品の中で強い感銘を受けた場面として「２人が結婚を葬り去る場面（第２幕第２場Ｃ「ウェディングワルツ～雨の花束」）」を挙げておられる。そして、映画『俺たちに明日はない』とは比べものにならないほどの優雅さと、絶望の深さを持つこの２人が、自らの手で結婚を葬ってしまうのは「この世の約束事から逃れ出ようと」しているからであり、クライドが目指すもの＝農場へ行き着いたとしても「どちらにせよそこに結婚はない。結婚は『死が２人を分かつまで』の間の地上の誓約である。彼らこそ輪廻する魂にほかならない」と。

輪廻する魂、とはなんぞや？と疑問を抱かれるフシもあろうが、これは『Ｅｎｄｌｅｓｓ　Ｌｏｖｅ』の主人公たちとの対比から出てきた言葉で、かの作品は「何度生まれ変わっても、結ばれる魂の組み合わせは同じ」とかいうのがメインテーマの作品だった（大幅リニューアルしてもうすぐ再演されるそうですので、興味のある方は見てくださいまし）。

ところがこの文章だと、「輪廻転生」なんつうものに導かれた訳でもなんでもないクライドとボニーの方が、よほどそれっぽく見えたってことになる。『Ｅｎｄｌｅｓｓ　Ｌｏｖｅ』の主人公たちは「死して再び結ばれた」だったけど、クライドとボニーは「生も死も関係ない」。結果的に「結婚」という「形式」を捨てても、実際には死によってすら引き裂かれない絆を得た。それが男女の愛（つまり恋愛）ではないと感じた人も多かったらしいが、「愛してる」と言い合ってるかいないかだけで恋愛関係があるとかないとか、そういうものではないと思う。少なくとも天野氏はこの２人を「結ばれるべくして結ばれた男と女」という風にとらえられたようである。

ここから先は、私の独断と偏見による「荻田さんがクライドとボニーに白い衣装を着せた理由」である。「えーっ、それはこじつけよぉー」と思われる方も多いと思うけど、自分勝手な「仮説」なので「そういう考え方もあるかなー」っという風に感じでいただければいいかな、なーんちゃって（反論のある方、どんどん意見下さい）。

私は、天野氏がおっしゃる「生も死も関係ない」強い結びつきであるのは至極ごもっともで、それは同感なんだけど、やはりこれは「結婚」を意味しているのではないかな、と思うのだ。何故そう思うかというと、彼らの死後のあるエピソードを知って「あ、そうだったのか…」とちょっと胸が痛んだからなんだけど…。

同じ墓に埋めて欲しいというボニーの願いは、結局聞き届けられなかった。クライドは兄バックのすぐ側に葬られ、ボニーは甥たち（実際には兄妹がいた）と同じ墓地に埋められたのだ。母エンマが「せめてきちんとした葬儀に」と心を尽くしたので、青い絹のネグリジェに身を包んだ棺の中のボニーの手には、小さな花束が握らせてあったという―この話を読んだとき「これじゃあまるで『うたかたの恋』だな」と、ふっと思った。舞台を見ていたときと違って、これは笑い事ではない。もしかしたら荻田さんもそう思われたのではないかな。それで「せめて舞台の上では『結婚』でもさせてやろうか」と思われたのでは…。もちろん「結婚」だけがそういう方法ではない。でも、そういう結びつきを一番表しやすいことではある。死んでからなら「死が２人を分かつまで」という地上の誓約にも縛られないし…。まあ、実際は「結婚式」というよりも「新婚旅行」みたいな衣装だったが(^^;;;;)、そう思ってビデオを見ると、晴れやかな笑顔なだけに何となく哀れに感じられたりする。もちろん、生で見ているときはそういうことは知らなかったんだけど。

理由はともかく、この衣装は本当にスッとしていて好きだった。一瞬なのがもったいないなあという感じ。『ＬＥＴ’Ｓ　ＪＡＺＺ』でも白いスーツ（ベストはなかった）は好きだったけど、こちらはソフト帽のリボン？が黒かった。帽子も真っ白な方がより良い感じがする。