日頃メルヘン調の壁紙ばかり使っているのに、今回は全然感じが違うなあと思われるかも知れない。これ、結構作るのに苦労したんです…って、内情をばらしてどうするんだ！って感じですね…っとっとっと。自分で「本物のボニー＆クライド没後６５周年特別企画」などと思いついてうれしがっているものの、実際にやっていることはいつもと何ら変わりはない。せめて壁紙くらいは普段と少し変えてみようかと思って作ってみました。自分でも「ちょっと濃い」ので、ひょっとしたら目がチカチカするかも知れません。そういうときは遠慮なく「苦情のメール」をば下さいませ。『凍てついた明日』はみんなが思い入れを持っていた作品なので、それぞれ皆さん、好きな台詞、好きな場面はあるはず。もちろん私もあって、実は今回選んだのは、一番好きな台詞ではない。どの台詞を取り上げようかといろいろ考えたのだが、このあいだビデオを見ていて「あらっ」と思ったりしたので、この台詞にしてみた。実はこの台詞、ご記憶の方もたくさんあるだろうけど、劇中に２回登場する。何となく見ていたら「ん？」と思うだけかも知れないけど。私も、実際に舞台を見ていたときはそんなに注目していた台詞ではなかったのだが、あとからよーく思い出してみると、これがなかなか、いろんな含蓄が詰まっているように思えるのだ。クライドは弟分のジェレミーを探して訪れたカフェで、ウェイトレスをしていたボニーと初めて出会う。初対面ではそれほど好感を持ちあった訳ではない２人だったが（どちらかというと、印象は悪かったような気がする）、何故か会話だけは結構きわどい。いきなり初対面の女にピストルをちらつかせるあたり、クライドは一種のうれしがりかも知れないと、思うことしきり(^^;;;;)。ボニーも、それに負けてはいない。ピストルちらつかせて「君をさらっていこうか？」という男に「どこへ連れていってくれるの？」と言う。これって、よーく考えると結構大胆な台詞だ。だがクライドはこともなげに「…どこへでも」。この台詞、このときは別に何の意味もない。クライドはボニーをどこかに連れていく気などなかった。彼にとっては一種の「社交辞令」であり、言葉のアヤって奴だ。もちろんボニーだってこの時点では、この「すました顔で人を撃ち殺す目をした男」についていく気などさらさらなかった。だがやがて、この何気ない台詞が意味を持つときが来る。最初の出会いからおよそ４年後、２人は「凶悪犯のカップル」として全米にその名をとどろかせるようになっていた。一味の壊滅を狙う官憲との銃撃戦や仲間割れで次々に人数が減り、残されたのは彼らとジェレミーだけ。そのジェレミーをすら「一緒に行く必要がないんだ」と言って遠ざけ、近づいてくる終末の予感の中で、クライドとボニーは初めて正面から向かい合う。最初から何もなかったのだとわかったとき、何者からも逃げる必要がなかったのだと悟ったとき、何もかも失ったはずの２人には、お互いの存在しか残っていなかった。だが、その存在ほど確かなものが他にあるだろうか。すぐそばにいながら「愛せない」と思ってきた相手が、その短い人生の崖っぷちに立ったときにようやく「自分の求めていたもの」だったと知ることができたのだ。それは「青い鳥」の幼い兄妹が、自分たちの求めていた青い鳥＝本当の幸せは、実は自分たちのすぐ近くにはじめからあったのだと知ったのとよく似ている。それでいてクライドもボニーも、これからの未来が輝かしいものになるだろうとは思ってはいない。だからボニーは「もうすぐ終わるもの、私たちの旅は」と言う。だがクライドはそれでも「いや、始まるんだ。ようやく」と言い切る。最初私は「うーん、何でそんなこと言うかなあ」と思ったりした。どう考えたってもうあとはないぞ、ってわかりきってるのに。だけど、この言葉を口にした時点でクライドは多分、生きているかいないかが問題なのではない、とわかっていたのだろうな、って気がする。言葉にするのはとても難しいけど、いわゆる「天使のラッパを聞いた」って感じの、何というのか、何もかも救われたと思う瞬間、それがやって来たって雰囲気…。それは後に「道の向こうにそれ（＝死）が待っているなら、恐れたりしないだけだ」という台詞になって現れる。その言葉を口にするクライドはもう、かつて「俺、どこまでいけばいいんだ？」と自らに問いかけていたような心弱い青年ではない。何者にも揺り動かされないような、ある種「聖職者」に近い表情をしている。その目に映っているものは、肉体の生死を越えたもの―それが彼にとっては「明日」なのだろう。…本当に『ボニクラ』は哲学だ。ちょっと話が先走ったけど(^^;;;)、お互いに自分たちが求めていた相手同士だったと知ったあと、ボニーは「（一緒に万事から逃げる道連れは）誰でも良かった、たとえあなたじゃなくても」と言う。それに「（自分も）誰でも良かった…でも（本当に必要だったのは）君だったんだ」と応じるクライド。ボニーは、私もそう思っているのよ、と感じで「クライド！どこ行こ？」といたずらっぽく問いかける。それに対してクライドが答えるひとことが、２人の間で交わされる２度目の「…どこへでも」。これはもうかつてのような社交辞令ではない。文字通り「生と死とに関わらず」どこまでも共に歩もう、或いは、君とならどこへでも行ける（こうなるとまるで「嵐もこわくない」だね^^;;）という意味である。それを「…どこへでも」という同じ台詞にしたのは、２人の間に流れた時間と出来事を際だたせるためだったように思う。行きずりの男女に過ぎなかった２人が、歳月を経て本当の結びつきを持つようになったのだ、という。ボニーは昔にも聞いたその言葉に微笑み、同意するように黙ってクライドの背中に腕を回す。クライドもボニーの肩を抱き、いずこともなく歩き始める。これが、この２人の物語の実質的な終着点だ。ここから先は、彼らの人生の終わりがどういう形で訪れたかが描かれていたのだから。…こういう調子で、『ボニクラ』は科学し出すとキリがない(^^;)。台詞だけでも、また改めてそのうちにやってみるつもりです。