歌を科学する２

タイトルだけ見たら「これって大リーグの話？」って勘違いされるかも知れない(^^;)。もちろんそうではありませんで…。今回は「この曲」というのを取り上げるのではなく、ちょいと別の観点からたあたんの歌を科学してみようと思って考えてみたのが「調のおはなし」。

私は高校生の時にブラスバンドに入っていたりした関係で、音楽を聴いたり楽譜を読んだりするのは今でも結構好きだ。昔はよく、クラシックの総譜（スコア）を見ながらレコードを聴いたりしていた。さすがに最近ではあまりそういうことはやらなくなったけど、『ＬＥＴ’Ｓ　ＪＡＺＺ』のときに緞帳や大階段に書かれた譜面を読んで「これって、主題歌なんだー」とかうれしがっていた覚えがある。

だからって訳ではないけど、たあたんの歌う歌を聞いていて「これってどの程度の音なのかな」とか「いったい♯や♭が、いくつついてるんだろう」などと思うことが良くある。今は携帯電話の着メロに「アマール・アマール」を入れているのだが、これ作るために、電器屋さんの鍵盤楽器コーナーで必死で音取ったなんちゅうこともしてみた（案外ついてなかった、確か♭２つのト短調だったと思う）。

元々宝塚には、短調の名曲が多い。「愛あればこそ」や「明日になれば」がそうだし、「アマール・アマール」なんかも短調だ。やはり「王妃さまー！」とか「お嬢さま！」或いは「エストレーラ！」って哀切な叫びには、短調がＢＧＭの方がよく似合うもの。

でも、長調の名曲が少ないかと言われると、決してそんなことはない。「すみれの花咲く頃」「おお宝塚」「さよなら皆様」、みーんな長調。これで古すぎるなら、「愛と死の輪舞」「君はマグノリアの花のごとく」「ソル・エ・マル」などなど。多分どちらかというと、長調の曲の絶対数が多いはずだ。

たあたんがごく若い頃の代表作というと『秋…冬への前奏曲』（１９９０年）のカレルがあげられるが、このとき幕開けに歌った曲と幕切れに歌った曲、どちらも短調だった。以降、『華麗なるギャツビー』（１９９１年）のタンゴ「レ・クエールド」、『この恋は雲の涯まで』（１９９２年）の「望郷」、『セ・ラムール』（１９９３年）の主題歌と挿入歌、など、この時期に印象に残った歌はすべて短調。ま、芝居にいわゆる「軽い」っていうのがなかったせいもあるけど、それにしても多い。ついでに、オッフェンバックの名曲を多用していた『天国と地獄』（１９９３年）でも、たあたんの歌は軽快だけど何故か短調だった。雪組で、ではないけど、ロンドン公演（１９９４年）の何曲かあった持ち歌も、ぜーんぶ短調だ。

この時期雪組には一路真輝という名歌手がいた。彼女はいわゆる「歌い上げる」タイプの典型で、歌詞の内容や歌い方よりも、音階的快感を聞かせる（変な表現…）人だった。ゆえに、どちらかというとメロディラインの美しい曲を良く歌っていた。そのせいでかも知れないけど、彼女の歌は長調が多いように思う。イチロ時代の雪組のショーでは、彼女が１人で歌う場面が必ずもうけられていた。

たあたんは、同じ名手でもイチロさんとはタイプが違う。どちらかというと、メロディもさることながら歌詞の中の世界を描き出して歌うところに彼女の特色がある。いわゆる「役者歌」って奴だ。だから、芝居でもショーでも、彼女の歌には「宇宙」があるなあ、と思うことが良くある。

これは私の勝手な推測だけど、そのイチロ的でない特色を生かすには、同じ傾向の歌を歌わせていたのではおもしろみがないから、しみじみと感情をのせやすい短調が多く使われたのではないか。

イチロ時代の後半も、短調の曲がやってくる。『サジタリウス』（１９９４年）の「情熱の星」で歌った「トリスタ・ペナ」、軽快なのに短調だった『バロック千一夜』（１９９５年）の「クラブ・アラビアンナイト」。初めてのディナーショー「ノーチェ・デ・アモール」（１９９５年）は、さすがに長調の曲が多かったけど、『マ・ベル・エトワール』（１９９５年）の「上海」の陰ソロ、銀橋で歌った「プティ・オン・ザ・リッツ」と「スワニー」の前半、いずれも短調。「スワニー」なんかは、後半の星奈優里ちゃんとハモるところだけが長調で、何だかおかしかった(^^;;)。

このあとが歌ばっかりのミュージカル『エリザベート』（１９９６年）。これは長調も短調もいっぱいあった作品だった。代表的なところでいくと「愛と死の輪舞」「私だけに」「パパみたいに」「愛のテーマ」「ママどこにいるの」などが長調。「最後のダンス」「エリザベート」「キッチュ」「皇帝のお仕事」などが短調である。中には「嵐も怖くない」＆「夜のボート」（この２つは同じ曲です、ご存じですよね）のように、短調から長調へ転調する曲もあったけど。

たあたんの持ち歌は３曲で、この３曲がいずれも短調だった。あっと、「僕はママの鏡だから」は違うな。途中で長調になるから。いずれにしても「またしても短調」なのだ。まあ、ルドルフは「マイナーが似合う」役だったからなんだろうけど。

花組へ移って初っぱなのＴＣＡスペシャルで歌ったのが「この世にただひとつ」。これも短調。大劇場を震撼させるような、おっそろしい歌声だった。それから『ザッツ・レビュー』（１９９７年）の「師走の風に」。この曲なんて、長調で始まったのにいるの間にか短調になっていた。あとは『サザンクロス・レビュー』（１９９７年）の「星の海」が短調。またこの歌、たあたんの声によく合っていたっけ。

最初の作品が『春櫻賦』（１９９８年）だったのだが、「万朶之桜」は始まりこそ短調だけど途中で転調して長調になってしまった。『ＬＥＴ’Ｓ　ＪＡＺＺ』は長調のオンパレード。ま、唯一短調の曲が「踊るぅ～五線譜～」で、これはたあたんが歌ったんだけど、「ＳＴＡＲＤＵＳＴ」「Ｉ　ｒｅｍｅｍｂｅｒ　Ｙｏｕ」といずれも長調。『風と共に去りぬ』（１９９８年）では「明日になれば」だけが短調。『ラヴィール』（１９９８年）はほぼ半々。まあ『凍てついた明日』（１９９８年）みたいに、たあたんの歌だけが全部短調で、他の人は長調だったっていうのもあるにはあるけど、ちょいと不思議な傾向である。

思うに、今の彼女の位置からすると作品の中で中心的な役割を担って歌うようになってきたから、かつてはイチロさんに与えられていたような曲が増えてきたのではないだろうか。主題歌とか挿入歌の主なものは、やはり長調がよく使われているから。『ノバ・ボサ・ノバ』（１９９９年）の「コルコヴァード」（フィナーレの歌です）なんて、まさにそういう感じだ。

「香寿ならこれくらい歌えるだろう」って選曲だなっていうのが素人にもすぐわかるというくらい、たあたんの歌う曲はいつも難しいのだけど、彼女の良さをいかせる選曲なら、実際のところ短調でも長調でもいい。これからも素敵な歌声を聞かせて欲しいものだと思う。

『サジタリウス』（１９９４年）の主題歌。ディナーショー「ノーチェ・デ・アモール」（１９９５年）の「心の翼」。『マ・ベル・エトワール』地方公演（１９９６年）の「マイ・ウェイ」。『風と共に去りぬ』（１９９７年）の「君はマグノリアの花のごとく」「故郷は緑なり」。ディナーショー「Ｋｏｊｕの森」（１９９７年）の「森のうた」。『ＬＥＴ’Ｓ　ＪＡＺＺ』（１９９８年）の「ＳＴＡＲＤＵＳＴ」「Ｉ　ｒｅｍｅｍｂｅｒ　Ｙｏｕ」。そして『ノバ』の「ソル・エ・マル」などなど。