ダンスを科学する１

現時点（４月２２日）で、私の観劇回数は７回である。そのうち、Ａパターンが３回、Ｂパターンが４回。Ａパターンすなわちコムちゃんのブリーザを最後に見てから３週間近く経っている。正直に申し上げて、克明に覚えているとはとても言えない。

でも、とうこちゃんのブリーザを見る回数は、ビデオも含めてこれからどんどん増加するわけで、他方コムちゃんのは、千秋楽はともかくそれ以上の回数を遭遇できるかどうかは定かでない。だったら、両者を同じくらい見た段階で「オーロと２人のブリーザ」という観点で科学してみようかな、などと思い、ちょっと「ネタばれ」気味なのを承知の上で、キーボードに向かっている。

　『ノバ』で主役の１人と言ってもいささかも過言ではない盗賊オーロ。男臭くてセクシーな半面、ええかっこしいの２枚目半。カルナバルの雑踏の中で「ひと儲け」するために、山を下りてリオへやって来た。銀行強盗など朝飯前。観光客エストレーラ嬢のネックレスに目を付け彼女を誘惑するが、もう少しのところで義賊ソールに阻まれてしまう。警察に追われて逃げるオーロは、街角でひとりの女と出会った。それがブリーザ―警察をやり過ごすために彼女を抱き寄せてキスするオーロ。このたった１回のキスが、２人とブリーザの許婚者マールの運命を変えることになる。

その翌日、昼の広場でソールが「アマール・アマール」を歌い、カリオカたちが陽気に踊っているところから「ボア・タールデ・カルナバル」は始まる。

ブリーザと情熱的な一夜を過ごした（であろうことは想像に難くない*^_^*）オーロは、彼女と共に広場にやってくる。ソールたちの姿を見つけて「こりゃまずい」という顔をするのだが、ブリーザは「何も怖くないわ」という雰囲気で踊り出す。それを見たオーロも踊りに加わる。

２人はキスを交わし、抱き合い、カルナバルの熱気の中で恋の炎を燃やす。時にブリーザが、我に帰ったように不安に怯えることがあっても、オーロは気付くこともない。彼は初めて知った真実の恋に夢中である。

だがやがて破局が訪れる。ずっとブリーザを探していたマールが、２人の前に現れるのだ。２人の男の争い。どちらも選べず、揺れ動くブリーザ。マールを追い払い、オーロはブリーザを抱きしめる。マールは逆上し、オーロをナイフで刺そうとする。だがその刃は、何とブリーザの身体を襲った…。

とにかく激しい。キス有り、抱擁有り、三角関係有り。その絡みの激しさは、たあたんの白い衣装がドーランでややピンクになってしまっていることが、何よりも如実に物語っている。しかも裸足で八百屋舞台の上だ。ヒールの高い靴を履いているのとは違うから、いつもよりも小さく見えてもおかしくはないのに、それが全然気にならないくらい、息をのむような場面である。

ストーリーダンスって意外と難しいものだと思うが、この場面でも「踊ること」と「表現すること」の違いを、２人のブリーザと、その相手をするたあたんのダンスを見ていて感じたりした。

　この場面の２人のブリーザの踊りの雰囲気は、私の個人的な感想だが、かなり違っている。コムちゃんは言わずと知れたダンスの名手で、女役で踊る機会も多い。マールとの場面ではつつましく可憐な印象があったが、ここでは大胆に情熱的に踊る。たあたんに絡むしなやかな肉体が、なんちゅうのか悩ましい。たあたんも、それを十分に受け止めて、なおかつぴたっと吸い付くように踊る。

ここでの彼女のダンスの凄さは、相手役を思い切り伸び伸びと踊らせることにある、と思う。何よりも、相手役を見つめる目がやさしい。男役でダンスの名手と言われる人でも、デュエットダンスとなると「からきし」な人が少なくない。誰とは言わないけど、一緒に踊る娘役を「きれい」に見せられない人もいるくらいだ。たあたんは１人で踊ってももちろん名手だが、２人で踊るときの包容力では、今の宝塚で屈指の存在だと思う。

かつて私は、たあたんと星奈優里ちゃんのデュエットダンスが大好きだった（いずれ科学します^^）。コムちゃんとの踊りは、それを彷彿させる大きさがある。この両者のダンスのタイプは、どこか似ている。

この場面見ていて「うーん、この組み合わせで『闇が広がる』を見たいなー」と思った私は、変態かも知れない(^^;;;;;;)。

　対してとうこちゃんのブリーザはどうか。彼女のはコムちゃんのよりも「無邪気」な感じがする。見た目も仕種もどこか子供っぽく、女役の経験があまりないこともあって、何となくバランスが悪い。見ていて「スカーレットとアシュレが」とか「クライドとジェレミーが」、或いは「新吉くんとむく犬の吉が」など、くっだらないことをいっぱい考えてしまった(^^;;;;;)。ダンスも特筆するほど上手くはない。だが、オーロを知って、どんどん変化していく過程を「演技」として見るならば、コムちゃんに比べて表現力に勝るように思う。一言で言うと少女から大人に変貌するって感じかな。

彼女のブリーザは「わかりやすい」のである。あ、こうなんだな、というのが、表情ひとつで良くわかる。だから、ブリーザの気持ちが納得しやすい。

たあたんのダンスもだから、技術よりも演技的なニュアンスが強まったように思える。リードひとつとっても、思い切り踊らせるというよりは、相手がちゃんと踊れるような感じで動いているように見える。相手役をやさしく見つめるのとか仕種なんかは変わらないが、同じブリーザ相手のダンスでも、こちらの方が年齢差が大きく見えてしまう。

コムちゃんのは「マールのところに帰りたいのかな、それとも？」という感じがした。ダンスとしてはかなり激しく動くし、迷ってるんだろうけど、イマイチ気持ちがよくわからなかった。

とうこちゃんのは「このブリーザは、選べないんだ」と思った。マールとの穏やかな愛は、彼女の中から消えたわけではない。だが、一度知ったオーロの腕の強さと激しいぬくもり（変な日本語ですね^^;;）は、なかなか忘れられるものではない。

ここでは「マールのお相手」もしなければならず、たあたんはなかなか大変だ。ブリーザの手を引っ張り合うのが、『あかねさす紫の花』の大和三山の踊りと似ていて、何となく笑えた(^^;)けど、とうこちゃんには「来たか若僧」って感じ、ナルちゃんには「奪えるものなら奪ってみろ」って感じで、ブリーザに対するのと同様、微妙にニュアンスを変えている。

たあたん自身はそんなつもりはないのかもしれないけど、オーロの感じ自体も違って見えた。コムちゃんのときは「大人の恋をする男」で、とうこちゃんのだと「ややロリコン気味(^^;;;;;)」。同じ役でも相手役が違うと違って見えるものだなー、と、しみじみ思う。

ブリーザが倒れて息絶える。唖然としてたたずむマール。オーロは悲痛な叫びをあげて、ブリーザに駆け寄ろうとする。だが、かねてから彼を慕っていた物売りのラービオスは、その場にオーロをおいておけないと感じ、彼の手を引っ張って連れ去る。あとにはブリーザとマール、そして、日が暮れる。

銀橋でオーロは慟哭する、「俺が殺した…！」と。この場面で歌う「アマール・アマール」は、恋におぼれて相手の気持ちを思いやれなかった自分の身勝手を責め、死んだ恋人を思う感情がほとばしり、聴くものの心を打つ。特に最後の「アマール…」という余韻のような歌い方が、オーロの悲しみを浮かび上がらせる（科学できるほど長く歌ってくれないのが残念だ）。

ブリーザについては、個人の好きずきもあるだろうから甲乙を簡単に付けられるってものではない。強いて言うなら、「ダンスのコム」ＶＳ「表現力のとうこ」って感じかな。両者の良いところが合体すれば、それは凄かっただろうなって気がする。さしずめ「史上最強のブリーザ」。