ダンスを科学する７

長らく購入したことがなかった「宝塚アカデミア」をちょっとした出来心？で購入して読んでいたら、あとがきのところでおもしろい記述が目に入った。曰く「深傷を負いつつ死にきれない『タータニア』と目があってしまった」…こういうの読んで笑うってファンとしてはいけないのかも知れないけど、プッと吹き出してしまった(^^)。私自身はタータニアと目があったってことはなかったけど、想像しただけで笑えたもので。目があった人はびっくりしただろうけど、たあたん自身は必死だから、ひょっとしたらその人に向かって「た、助けてくれい」って気分だったかも知れないなあ。

殆ど忘れかけてるけど、『夢は世界を翔けめぐる』には世界遺産を巡るというテーマがあった。この「コロッセオ」（コロシアム）もそのひとつで、ローマに今も残る大円形劇場は５万人もの人々を収容し、彼らはここで、剣闘士たちが１人になるまで殺しあう、その試合を見物したのだという。残酷な歴史を飲み込んだこの遺跡に、２人の男が率いる２つの勢力が現れその歴史の通りに殺し合う、これはそういう場面である。

街を愛し、平和を愛するロマーノ家のノルネオ。街のなわばりは自分のものだと主張し、誰にも邪魔はさせないと豪語するミラーノ家のタータニア。古来から繰り返されてきたであろう抗争に決着を付けるべく、彼らはコロッセオに結集する。手を取り合おうと説くノルネオを尻目に、争いを止めようとはしない男たち。ノルネオもタータニアのナイフに襲われる。やっとの思いで振り払ったナイフを拾い上げたノルネオに、そのナイフを奪い返そうとしたタータニアが襲いかかり、そして…。原型には『WEST　SIDE　STORY』の影響があると思われる対立を描くダンスで、振付は羽山紀代美さん、音楽は高橋城先生。

最初パッと見たとき「あら、どこかで見たような」と思ったのは、かの「パタゴニア」にそっくりだったせいかな。２つのグループが互いの陣地から行ったり来たりというフォーメーションや、背広に帽子という衣装がそっくりそのままで、おいおい、これじゃあまりにもオリジナリティがないではないか、と思った。それと、私は羽山先生の振付は好きな方だが、それでも、何作も見ると「前にもこういう振りがあったよな」と思うことがよくあるのには閉口する。「コロッセオ」も過去の振付に酷似した部分がいくつか見られ、どーにもこーにも新鮮みが感じられない。何でこうなるのん、とか思った―タータニアが刺される？までは。刺されてからだって「どこかで見た」がないわけではないんだけど、そこはそれ、私ってば大ファンバカなので(^^;)、苦悶にのたうち回るたあたんを見ているだけで、それなりに楽しめてしまったのである。ああ、恐ろしい…(^^;;;;;)。

まずノルさんが上手の花道から銀橋に登場して、本舞台下手袖から出てくるたあたんと掛け合いで歌う。この曲が開演前にアカペラで流れているスキャット（っていうのか、あれも）と同じ曲だというのは、公演も後半になってから気付いたのだが、最初のうちこのデュエットが互いの自己主張に流れ、まー聞き取りにくかった(^^;)。別々の旋律を同時に歌わせるってことに、かなり無理があったのかも知れないけど。中盤から後半にかけては、お互いに呼吸がつかめてきたのかそれなりに聞こえるようになってきてひと安心。それから２人の味方たちが登場。ガイチ率いるロマーノ家はブルー、とうこちゃん率いるミラーノ家はワインカラーの衣装。たあたんの横にとうこちゃんが並ぶと、雰囲気はさながらクライドとジェレミーって感じだ。

ここで私の第一のツボ登場。両手を広げ、片足を真横に上げるときのその足が、糸に引かれるが如くつーっと上がるのがいつ見ても見事で、好きだった。この対立するあたりのダンスは振りが激しいというのではないのだが、たあたんダンスが持つ魅力のひとつである「力強さ」は生かされていたと思う。

闘いは止めて手を取り合おうと説くノルネオの叫びを鼻で笑い（わ、悪い奴だ…）、被ったソフト帽を脱ぎ捨てて闘志をむき出しにするタータニア。ナイフを手に持ち、ノルネオに襲いかかる。だが、そこで必死のノルネオにナイフを払い落とされたのが彼の悲劇の始まりだった。ナイフを取り返そうとしてノルネオに近づき、誤って我が身を刃の前に投げ出してしまう。

刺されたことに気付いた一瞬の「あ、あほな…」って感じが、さっきまでの人を食ったような表情と対照的で、何とずーっと苦しげに踊るのだが、どちらかというとかなり芝居がかった雰囲気なんだな、これが。ノルネオとのデュエットダンスといえばそうかも知れないけど、別にリフトがあるわけではないし（あったらコワイ）、どちらかというと刺された者と刺した者、お互いの心の葛藤がテーマになっていく感じ、かな。

ノルさんの左手に支えられてしなだれかかるたあたんの表情が第二のツボ。痛みのあまり朦朧、というか恍惚とし始めた表情が、何ともアブナイ(*^_^*)。人に支えられてるとはいえ、あんなに反り返ったら危険なことはないのか？と思うが、そこは強靱な筋肉って奴が物を言うのだろう。

そのあとノルさんに引きずられるわけだが…たあたん曰く「重くて申し訳ないなあ」。うーん、確かに段ボール箱でも引きずっているような感じがした。でも、たあたんが重い（！）っていうよりは、普通男が男を引っ張って軽いはずはないのだから、そういう質感はよく出ていたのではないか。普段、娘役をリードする姿はよく見るが、こういう風にサポートされてるところを見ることは殆どないので、この構図はいささか興味深かった。

で、そのあとは床に転がる―ここは２階から見ると、苦しげに助けを求めるたあたんの表情がとってもよく見えてよかった。１階、特に前の方からだとこれがさっぱりわからず、１公演分損した、なーんて思ったものだ（♪これが贅沢というものさ～^^;;;;;）。そのときの眼差しがどこか少年っぽく、苦痛にあえぎながらも起きあがり、あらぬ方に手を伸ばしてふっと微笑む、となると、私にしたらもう殆ど「これって、『いつかどこか』でありませんでしたか？」状態（何のことだと思われます？考えてみてくださいまし）。自分から仕掛けた闘いで傷ついた自業自得であっても、ああいう顔されると「何とかしてやりたい」と思ってしまう、それもまたファンバカ(^^;;;;;)。だが彼はすぐに、自分が求めた方向に救いはないのだと知る。神は闘いを捨てない彼を救ってはくれなかった―誇り高いタータニア、彼は自分の運命が尽きたことを悟り、ノルネオに向かって懇願するのだ、「止めをさしてくれ！」と。誤って刺してしまってから、苦痛にあえぐ様子を見るにみかねていたノルネオは、そんなことはできないと後ずさりするのだが、結局タータニアの望み通りに首を絞めてやる。

ここで首を絞められて目を剥く表情はヘンちゃんご臨終とそっくりだし(^^;)、ノルネオの肩にもたれかかって安らかに死んでる、となると殆どルドルフ状態(^^;;)。何でこういう「前にもあったよな」って場面にしてしまうかなあ!?って疑問はあるものの、元来物好きな私としては結構好きだったりする(^^;;;;;)。ただ『エリザベート』と違ってセリは下がらず、たあたんは自分で自分の態勢を始末しなきゃならなかった。で、「死んでる」はずなのに？ノルさんの腰に右手を回し、最初に支えて貰ったのと同じポーズから静かに床に倒れる。最初に左手を床につき、左足・右足・右手の順に倒れていくのだけど、表情崩しちゃいけないだけに、これはやりにくかったのではないかな（時々、反り返ったときに口が半開きになってた…）。

ノルさんの左手から右手がするっと落ちる瞬間も結構印象的だった。ひとつの街に２つの勢力はいらない。だからこそ闘いに挑んだタータニア。結局はその闘いに敗れたわけだが、ノルネオがどんなに呼びかけても和解しようとはしなかった彼が、最後に「ありがとう」と言い残して逝ったような、そんな気がしたのだ。死んでる感じがすごく安らかで（Ｎ嬢に言わせると「激しかったお腹の動きが段々規則正しくなってきて、どーも寝てるんじゃないかって思うことがあるよ」ですと^^;）、自分の生命を投げ出したことによって、やっと神に許されたって気がしたから、余計かな。

だけど、頼まれたとはいえ人を殺める結果になってしまったノルネオにしたら、これはたまったものではない。月に照らされ、彼以外の者がすべて死に絶えたコロッセオで「どうして憎みあう、どうして血を流す」と嘆きたくなるのも無理はない。死んでようやく安らぎを得た（ん？これもどこかで聞いたようなフレーズ…）タータニアは、そりゃ成仏できてよかったね、だけど、ノルネオはこれからも生きていかなきゃならんのである。まったく、俺の人生どうしてくれんねん！って感じだろう。尤もこの場面、そういう愚かしい闘いの空しさを訴えるのが主眼、なのだけど。

この場面のたあたんを見ていて「なんつうのか、色っぽいな」と思ったのは私だけではないと思う。どういうのかな、黒光りしているというか、艶っぽいというのか。不思議な妖しさみたいなのが漂っているような気がした。特に傷ついてからのちょっと可哀想（って思ってたのはファンだけだろうけど）な感じは不思議だった。だからって中性的な感じか？と言われればそういうのは皆無だったのだけど。かっきりした男役らしさなのにそういうものを感じたのは、男役同士が絡むということの不思議だろうか。たあたんは意外とこの手の絡みが多い、というか、娘役相手にしているときの大人っぽいノーマルさ（ちょ、ちょっと変な表現かな？）とは別のものが醸し出されるから、そう思うのかも知れない。過去に「あ、妖しい…」と思った絡みは、そう言えば男役さん相手のときが多かった。最近で黒光り、というと、なんつうてもヘンちゃん。女役さんとの絡みもあったけど、印象に残るのはルドルフやミカエルなど男役さんとの絡みだ。そういえば以前、黒エンビ同士でソシアルダンスしていたこともあったっけ。いつのこっちゃ(^^;)。やはり男役に「身を任せる」と、知らず知らずいつもと違う雰囲気が出てくるってことなのかも知れない。尤も、この場面見ながら「次はこの２人でオスカルとアンドレ」とか考えると、頭がおかしくなりそうだったのも確かである(^^;;;;;)。

内容を思い出してて思ったのだけど、結局この場面ってかなり芝居ががっている。ステップがどうとか、足がどうとか、そういう具体的なことは浮かんでこないのである。しょっちゅう両腕を左右に広げてたし、膝はよくついてたと思うけど。どちらかというと、たあたんのダンスそのものよりも、設定も含めた彼女の動きを楽しんだって感じかな。とにかく全身運動って点ではこの上なく激しかったから。死んだ後？腹部が「ひーはー」なってたのも無理はない。こんな調子でたあたんばっかり見てたもんで、死んでから気付くと周囲もみんな死んでいた(^^;)。まったく、ファンは盲目である。

ま、ちょっと不満があるとするなら、せっかく男役同士でデュエットダンスさせるのなら、もっと本格的に踊らせたらよかったのに、って点だが、どうせこれから「オスカルとアンドレ」見なきゃいけないのだから（ダンスはなくても、確実にあるラブシーン…*^_^*）、この際あまり欲は張るまい(^^;;;;;)。この２人の絡みとしては『ベルばら』前哨戦という風に…思うにはなんだか、刺激的な場面だったな。今でもときどき、ノルさんの腕に抱かれて？たときのたあたんの、あの陶酔したよな表情を思い出すとドキドキしてしまう(^^;;;;;)。またそれを「今宵一夜」見ながら思い出したらどうしよう？などと、つまらないことを考えてしまうのである(^^;;;;;;;;;)。ホンマに罪作りどっせ、草野先生。