久々に「台詞を科学する」をしてみようと思ったとき、頭にパッと浮かんだのがこれ。やっぱり地方公演中だからかも知れないけど（そういやこのところ、地方公演ネタの連続だ…^^;;;）、私は大体が「さりげない台詞」が好きな人なので、あれこれ考えると浮かんでくる作品がかなり限定されてしまうのである。特に最近たあたんが出演している作品だと、悪いけどそういうのが殆どなくて、脚本家の貧困化みたいなのを感じてしまう。最初に「作品ありき」で作っている割には、内容がお粗末すぎるんだなあ…次こそは、考えなくてもネタになる台詞がふっと浮かんでくるような、そんな作品であってほしいものだ。お願い、柴田先生！…ってな訳で今回はこの台詞なのであります。『風共』というとたあたんにとってはかなり縁の深い作品になったのだが、２年連続で男女を演じ分けたのはまだまだ記憶に新しいところ。誠実でなさけなそー？に見えたアシュレ、炎のように激しいのに野の花のような可憐さをも兼ね備えていたスカーレット。どちらも楽しく見ていた覚えがある。今回取りあげたのはアシュレの台詞で、スカーレットのときはこの台詞を投げかけられる側だったのだが、あんまり間隔が開いてなかったせいもあって、聞いていて何だかおかしかった。絶対にあり得ないことだけど「もしもたあたんのスカーレットにたあたんのアシュレだったら、どんな感じかな」などと想像すると、ついつい妄想モードになってしまったりする(^^)。お馴染みの場面だと思うけど、簡単におさらい。南北戦争が終結してまもなく、メラニーを連れてタラへ逃げ帰っていたスカーレットたちのところへ、アシュレが復員してくる。彼はスカーレットを手伝って慣れない農作業に従事しているのだが、そこへ浮かび上がるのが税金問題。戦争で何もかも失ったスカーレットには、タラの土地を維持していくだけの金はない。困り果てた彼女はアシュレに相談するのだが、元来生活力に乏しかった上に、敗戦で打ちひしがれている彼に妙案が浮かぶわけもない。「戦争さえ起こらなければ…」と嘆く彼は、いつも自分の心の中に巣くっている逃避願望を口にする。それに呼応したスカーレットの言葉「あなたは私を愛しているのよ」に対して、アシュレがつぶやくのが、この「愛してなんかいない」。出征前にスカーレットから愛を告白されたときは、死の覚悟があったからとはいえ毅然としてそれを振り切ったアシュレだが、この場面では彼の精神面にそういう余裕がない。スカーレットに養われているという意識がそうさせるのかも知れない。で、耐え難い現実を突きつけられてどんどん逃避願望が強まっていくわけだが、スカーレットはそういう彼の内面に気付くことなく（そのあたりが彼女の子供っぽさなのかも）、彼に迫ってくる。彼女自身、戦争前とは変わってしまった境遇や、その細腕ひとつに多くの人の生死がかかっているという生活に疲れ果てていて、そこから逃げ出したいと思っていた。だがその逃避願望はアシュレのそれとは違い、今の境遇からの脱出が主眼である。彼女は見た目の美しさとは裏腹に、雑草を食べてでも生き抜く強さを持っているのだから。いわば初めから論点が噛み合っていないのである。だからアシュレは拒絶するのだが、スカーレットは「夢見る夢子さん」なので、そこがわからず突進！していく(^^;;)。
何度も上演された作品だけに、いろんな人がこの台詞を言っている。最近だけでも４人くらいいたはずだ。私も９４年に月組・雪組とも見ているのだが、どういうニュアンスだったのかはとんと覚えていない。雪組なんて４回も見たのに。だから、普通に聞いていたら別にどうってことのない台詞だと思うのだが、たあたんのはなんちゅうのか、単純な拒絶ではなく、短い中に「あれ？」と思うような様々な感情がこもっていたのである。さっきも書いたようなスカーレットの感情の激しさに、アシュレはたじろぐようにこの台詞をつぶやく。本来はその、スカーレットと自分との間の永遠のギャップ―彼自身は、お互いが相容れないってことをわかっている―を踏まえた上での言葉だったのだが、たあたんの場合、私が一番に感じたのはスカーレットへの憎しみ、だった。いかにがさつな淑女（！）だったとはいえ、長年付き合ってきた相手である。幼なじみでもあり、気心も知れている。普段の彼は別にスカーレットを憎んでいるわけではない。しかし、己れの感情のおもむくままに自分をさらけ出してくる彼女のエネルギーに対して、瞬間的にそういう感情を抱いたのではないか。憎しみというか、嫌悪感のようなものを。それと同時に、お互いに全く違う本質であることを理解し得ないスカーレットへの恐怖、みたいなのも感じたりした。その本質が合わないが故に、アシュレは女性としての彼女を愛することは出来ないのだが、彼女はそれがわからない。特にたあたんの場合、スカーレットよりも年下に見えてしまうこともあったので（実際年下だよなー^^;）、その恐怖感がより強く感じられるときもあったのである…何だかこう書くと、まるでスカーレットが恐怖をかき立てる対象物だったような感じだが(^^;;)、別にそう…いうことではないつもりである…(^^;;;;;)。今から思えば、たあたんのアシュレは「生身の人間」だった。私ははっきり申し上げて「少女マンガ世代」であるが、マーガレット・ミッチェルの時代にはそんなものは存在しない。なのに、原作に登場するアシュレという人物は、どう見ても「少女マンガに登場する、白馬に乗った王子様」以外の何物でもなかった。とすると、その時代からイメージしやすいあこがれの君の典型的タイプの具象化された姿、それがアシュレなのかも知れない。実際、今までに演じられてきたのを見ると、いかにもヒロインが憧れそうな青年像ってのを全面に押し出していた人が殆どだったように思う。ところがたあたんのは、絵空事ではない人間としてのアシュレを捉えようとしていたような気がした。だから、アシュレの内面により焦点が傾いた人物像だった分、見た目の格好良さとかその他諸々の「王子様的要素」は薄れ、「アシュレにしては元気がいい」って感じになったのもうなずける話である。そら、違うんと違うか？って人もあるだろうけど、ひとつの試みとすればおもしろかった。だから、何となく「マンガ的な美しさ」っぽかったタモさんのスカーレットとはあんまりバランスがいいとは言えなかったが（２人並ぶと幼なじみがおままごとしているような感じ、とでも申しましょうか）、本来柄ではないので幾分技巧に走っていたみきちゃんのレット・バトラーとは、何となく映りが良かったのは事実である。アシュレに関してはもっといろんな側面から科学してみたいこともあるので（特に、歌）、あんまりクドクドとは書かないでおこうと思う。ただ、あれから３年経った今なら、どんな風に演じるだろう…と思うことがある。そうしたら、また新たなアシュレ像が生まれるだろうか。見たいような、もういいような…って感じである。