衣装を科学する５

普段使っているフォトレタッチソフトでの写真加工に飽き足らなかった私、２ヶ月ほど前に「photoshopLE」（機能限定版）をば手に入れました。で、いろいろ遊んではいるのですが、どーも思うようにいかない。この壁紙も貼り付けてみて「うーむ、イマイチかな」とか思ってるんですが…ホームページの組み立て方といい、今年ももっともっと修行が必要だなあと感じております。

私は結構好きな衣装なので、本当はまだまだ取りあげたくなかった。ところが『華麗なる千拍子』で再登場してしまい、続く『レビュースペシャル』でもご登場。見ながら「これって、取りあげなきゃいけないってことかなあ…」と思ってしまったのであった。こうやって衝動的に取りあげていくと、そのうちにネタがなくなっていくのではないかと、ちょっと心配だったりするけど(^^;;)。

この衣装、結局一番クライドを思い出させる。ポスターの衣装だったのである。ポスターではモノクロだったので、最初は「変な縞模様だなあ」としか思わなかった。だから初日に見たとき「あれ、これってポスターの衣装？」と一瞬考えてしまった。モノクロだとわからなかったストライプが、赤・青・白に細かく別れていて、ちょっと複雑な感じに見えたのである。白いワイシャツ、同系色のネクタイでまとめた姿は、とってもすっきりした印象。同じ三つ揃いでも、１幕の冒頭に着ていたグレーのウールっぽいスーツがどうも「どてっ」として見えたのと比べると、洗練されたように見える。

故郷ダラスから逃走して数年、ボニー＆クライドは全米に名を知られるお尋ね者のカップルになっていた。２幕の冒頭の銀行襲撃シーン、この衣装にソフト帽という出で立ちのクライドが登場する。傍には、ローズピンクのスーツをまとったボニーがいる。帽子の下からわずかに覗くクライドの表情は、どこか世の中を小馬鹿にしたような尊大さと、青年らしい無鉄砲さが混じり合っている。それは、仲間を率いて暴れ回るときも、母に会いたがるボニーの願いを叶えるためにダラスに戻ってきたときも変わることはない。三つ揃いをきちんと着て、帽子を被った姿。それは世間が思うクライド・バロウのイメージでもあり、その姿でいる限り彼は決して崩れない。あたかも、自らの上に違う自分を着せかけているかのように。

衝動的に人を殺してダラスを後にし、もう戻ることのできない道を歩き始めたクライドは、時折途方に暮れ、すぐそばにいる人の温もりを求める。そばにいるのはボニー。だがその肩を抱く彼の心に宿るのは、忘れ得ぬ女性アニスの面影―それを見透かすボニーも、同じように前夫ロイを忘れることが出来ないでいる。

ダラスに戻り家族と対面する場面では、この心の動きと衣装の変化がより顕著になる。ボニーが母と抱き合う姿を見ても、姉に「わたしの坊や」と抱きしめられてもギャングのポーズを崩そうとしなかったクライドだが、兄バックが刑務所から出所したと聞かされて帽子を取り、少年のようにはしゃいで家の中に駆け込む。ここで彼に帽子を取らせたのは、ギャングのリーダーという「世間向けの顔」から、兄との再会を喜び素顔のクライドに戻る、というのを意味するのではないか。そして家の中で上着を脱いでから再び登場すると、ボニーの母エンマとのやりとりから、クライドとボニーは、お互いの心の中にある本当の想いを見つめ合うことになる。

「俺のこと、愛してるか？」「あなたは？」。ボニーはクライドの一番身近にいる、それでいて一番遠い存在であった。だが彼の心の中を最もよく知っているのは彼女だっただろう。だからこそ、初めは格好つけて接していたクライドも、彼女には素顔を見せてしまう。ボニーと２人きりのやり取りのとき、彼がいつも上着を着ていないのは、ギャングではないクライドとして、ボニーに接しているということを暗示しているような気がする。同様に、心の中にいる兄バックに語りかけるとき、姉ネルとの別れのとき、姉から渡されたブーケに恋人アニスの面影を思い浮かべるとき、当然のことながらクライドは上着を着ていない。そして時には少年のような表情さえ見せる。シャツの色が白で、そのときどきの照明の変化によって微妙にニュアンスが変わって見えたのも、この衣装の計算のひとつだったように思える。姉との別れの切なさ。アニスの幻を見つけて近づいて行くときの、穏やかな中に愛の喜びを秘めた表情。私は結構この表情がツボで(^^)、ちょっとニュアンスは違うけど、『エリザベート』のルドルフが母を見つけたときの顔と似てるなー、とか思いながら見ていた覚えがある（同じ人なんだから当たり前か^^;）。ここのアニスとの場面は、台詞がひとつもないだけに、かえってその感情のうつりかわりが顔にすべて出ていて、一際印象的だ。アニスに向かってブーケを差し出しながらも、これはすべて自分の願望に過ぎないのだと悟る瞬間の表情の変化も忘れがたい。そして我に帰ったとき、アニスがいたはずの場所にはボニーが立っていた―

こういう衣装をたった１年で再登場させてくれると、こちらとしては「おいおいー！」って気にもなる。でも同じ『ボニクラ』の衣装を、昨年９月の『SAY　IT　AGAIN』ですでに使われていたから「ま、たあたんが着るんだからいいか」って気もした。場面は言わずと知れた「ニュー・オリンズ」。カンカン帽に青いサテンの開襟シャツを合わせ、軽快にステップを踏む。同じ衣装でもずいぶんと印象が変わるものだなと思ったのは、ショーと芝居の違いかも知れない。それと、大劇場で見ると色目がより落ち着いて見えた。悪く言えばやや地味め。細かいストライプがバウ向きなのかも。

この時のダンスのパートナーはまゆみちゃんだった。チャールストンが流行したのは、クライドが生きた時代よりも少し前のことになるが、彼がその名を馳せた頃も踊られていただろう…軽快に踊る２人に、クライドとネルの姿がダブって、もしかしたら姉弟で踊っていたかも知れないなー、なんて想像してしまった。

で、『レビュースペシャル』でまたまた登場。結局この催しって『千拍子』の衣装がそのまま使われてたってことだ(^^;)。尤もたあたんの場合、他の人が「ニューヨーク」のときの衣装そのままだったのに対して、スーツはしましまだけどカッターシャツは「ニューヨーク」で着ていた黄色いのを合わせていて、この方が『ボニクラ』とは近い印象。友人などは「ク、クライドが踊ってる」と叫んでいた。