ダンスを科学する４

この壁紙、これから書こうとしているダンスの内容とはじぇんじぇんあってない(^^;)。なのに何でこれを選んだかというと、くまさんの色とかの「寝間着のような衣装」の色が似ているからという、世にも単純かつ馬鹿馬鹿しい理由からである。まあ、夏の暑さで頭がやられたと思って、許してやってくださいましm(_ _)m。

この題材は、まいけるちゃんからのリクエスト（いつも、ありがとう！）。私自身とても思い出深い、今でも大好きな場面である。たあたんの数あるダンスシーンの中でも、彼女の包容力と表現力が生かされた、いかにもたあたんらしいダンスだったと思う。振付は羽山紀代美さん。たあたんは未だに、この先生のレッスンに出ておられるという、おなじみの方である（８０周年記念誌「夢を描いて華やかに」１６ページに、羽山先生のレッスンを受けてるたあたんの写真が出てますので、お持ちの方はご覧下さい）。

前場面「アフリカーナ」の広い平原にセットが被さり、一瞬にして教会に変化する。そして、暗闇にうごめく？多数の人間たち。まるで寝間着のような茶色い衣装で、何が始まるのかな？って感じで、振りもなんだか摩訶不思議な感じがする。なんつうのか、バレエぽいと言うか、体操みたいというか…。そして一条の光が彼らにあたると、その中から１組の男女が浮かび上がる、っていうより立ち上がるんだけど(^^;)。男はいう間でもなくたあたん、女は星奈優里ちゃんである。

向き合って踊る２人は、あるいはこの男女たちの「愛」を象徴しているのかも知れない。お互いの呼吸を確かめ合うような振り（見方によっては柔軟体操風）のあとに、身体を絡ませあったまま一度はその姿を消す。しかし、大勢の男女の姿が散っていったとき、舞台上にはさっきの２人だけが残り、初めはとまどいながら、だが次第に感情を高まらせつつ「愛」を形作る。音楽はボレロのリズムを刻み、男女の姿が少しずつ増え、「愛」はますます激しくなっていく。そして、イチロさん扮するボレロの歌手と、はなちゃんのボレロの女が現れ、彼らの「愛」は成就に向かうのである…簡単に書くとこういう感じ。こ、この場面って、文章で表現するのはとーっても難しい(^^;;;;)。

今でもはっきり覚えているのだけど、確かこの作品、座談会の時には配役が決まっていなかった。だから、いつもなら少しは予備知識があるのに、まるっきりなかったのである。で、当時梅田の阪急百貨店の宝塚コーナーでは、初日の前日の木曜日にプログラムが入荷していたので、わざわざ仕事の帰りに「立ち読み」しに行った覚えがある。ちなみに私は、大劇場のプログラムは改札口入って左手のプログラム売場で買うと決めているので、先に買うってことはしない。いつもそこで買うので、そうしないと気持ちが悪いっていう、結構単純なクセなんだけど。

その前の公演が『サジタリウス』で、場面としては良かったんだけどイマイチ欲求不満な部分もあった。このころは、地震の直後だったこともあって気分は結構モヤモヤ気味だったのである。で、プログラムを読んで「ふむふむ、ふむふむ」。ああ、また場面を持たせてもらえないのね…とか思いつつパラパラとページをめくっていた。

ふと、脚本のページを見る。と、この場面について、こーんな風に書かれていた。「“過剰の美学”を思わせるセットが割れる。一条の光がさす。ボレロのリズムと共に一組の男女が踊る。愛を踊る。その男女の数は次第に増える…」云々。これだけ読んだら「どういう場面か、さっぱりわからん」。第一プログラムでは「ボレロの男」「ボレロの女」がうじゃうじゃいるだけで、その一組の男女がいったい誰のことを指しているのか、それも判別しにくかった。でも、「アフリカーナ」がダンサーをほぼ総ナメしていることと、およその顔ぶれを見て「たあたんが“男”かな」とチラッと期待した。じゃ、パートナーは誰なんだろう？

この場面、娘役は特にダンス巧者が沢山出ている。その中でたあたんと踊れそうな人って、誰がいるかな？ちょっと見ただけでは何とも、判断がつきかねた。と、こう書くと「なーんでプログラム見てピンとこないかなあ」と思われる方もあるだろうけど、得てしてそういうものなのだ。私が「ひょっとして、ゆりちゃん？」と思ったのは、何度もプログラムを読み返してからだった。

私はゆりちゃんが大好きなもんで、だったらいいな、と思ったけど、そうかどうかは見てみなければわからない。だから初日は、結構ドキドキもんで見ていたような記憶がある。そして、２人がパッと立ち上がったときのうれしさときたら！それこそ『エリザベート』のルドルフ、『ザッツ・レビュー』の「すみれのボレロ」、『ＬＥＴ’Ｓ　ＪＡＺＺ』の「シカゴ」と並ぶ「先入観がなかったばっかりに狂気乱舞した場面」となったのである。でも正直言って「一組の男女が踊る」は最初の絡みだけなのかな？と思わないでもなかった。だから２人だけが舞台に残されたときは「あー、よかった」と思ったものだ（たったあれだけのデュエットだったら、それこそ「金返せ」の世界である）。

どちらかというと大人っぽいイメージの強いこの両者だけど、このダンスに関しては、その大人っぽさと同時に、どこか初々しい、透明感のあるカップルだなって気がした。これは『雪之丞変化』の、あの可愛い姉弟の影響かも知れないけど(^^;)。だから、互いに向き合って足を高く上げたあとに、戸惑いを覚えながらも惹かれあうって感じの振りがあるのだけど、そういうニュアンスが結構似合ってたりする。

最初の「向き合って足を上げあう」からして、これはもう「普通のデュエットダンスじゃないなあ」て感じがした。どちらもがかなりのダンス巧者でないと、こういう振りは付かないだろう。真っ直ぐに伸びる足のラインが美しく、呆れるほど高い。かつて「夢の花束」のインタビューで、たあたんはこの足上げについて「そんなに高くは上げてません」と語っていたが、確かに身体とと平行に上げてるわけではないから、そんなに高くはないのかも知れない。でも、上げた体勢のままで更に伸び上がるのである。これって、そうそう誰でもできる技ではないと思う。

その後の抱き合うところ、これは大劇場と東京ではちょっとニュアンスが違っていた。大劇場ではお互いに存在を認めて、戸惑いながらも衝動的に抱き合う感じだったが、東京ではたあたんが「おいで」という具合に両手を広げ、その胸にゆりちゃんが飛び込んだのである。ちょっとした変更だったのだが、これでたあたんの包容力がグッと増した。そういえば東京公演の時、抱き合う２人に「パチパチ」と拍手したお客さんがあったよなあ。

ロミオとジュリエットのように手を合わせ、高らかに「愛」を奏でる２人。ここから先のポーズは、そのひとつひとつがいずれも美しい。後ろから抱きしめるところの包容力。ゆりちゃんの片手をたあたんの片手で支えて、ゆりちゃんが片足を上げるときの、たあたんの揺るぎのなさ。特にきれいだったのが、高く上がったゆりちゃんの右足をたあたんが左手で受け止め、その姿勢のまま大きくかがみ込むときのポーズだった。たあたんの右足とゆりちゃんの左足の線は完全に平行を保っていて、おまけに、少し反り返り気味になるゆりちゃんの上半身や、それを支えるたあたんの身体は、ピクッともしないのである。しかも、当然かも知れないけど正確に曲とあっている。どちらかというと、ゆりちゃんの身体の柔らかさを生かしたポーズをたあたんが支えているという感じのダンスではあるけど、そのどれもが、しっかりサポートしていないと保つことが出来ないポーズばかりである。そして、その度ごとにたあたんはゆりちゃんを見つめ（その表情がとってもやさしくて頼もしげである）、常に先に手を添えて相手が踊りやすい位置をキープしている。

２人が２人で踊っている時間は実はほんのわずかで、この間にもボレロの男女が後ろに登場している。そして、全員が整列したところでイチロさんのボレロの歌手が登場する。このあたりのセット転換はとても美しく（特に大劇場）、教会が大きな回廊のように変化していく。特に、はなちゃん扮するボレロの女が、群舞と同じ踊りで登場してくるところの入れ替わり方などは見事だった（なのに、セルビデオにもＢＳの中継にも入ってない…/_;）。イチロさんの「オンブラ・マイ・フ」は朗々としていて見事な歌いっぷりで、たあたんにも歌わせたいなあ、とか思ったりする。

そのあと、たあたんたちを含む先刻のボレロの男女が登場し、「反復横飛び」かと思うような振りまでついた、速いテンポの群舞になる。これは当然全員がデュエットになっていて、同じ振りで踊るのだが、たあたんとゆりちゃんのデュエットの本当の凄さは、案外この踊りの方にあるかも知れない。何せトップコンビを含む他の並み居るカップルをまったく寄せ付けず、完璧に「２人の世界」を形成していたのである。テンポが速くなっても、互いに見つめ合いながら踊るのに変わりはなく、しかも他の人よりもポーズもテンポも良く、カップルとしての親密度も高い。ＢＳで放送されたとき、一瞬隣のトップコンビと「ツーショット」になったのだが、そういう映し方をしたくなるほど見事だった。東京公演ではこの２人の衣装にだけスパンコールの花のような飾りが付いたのも、目立たせてもいいような２人だったからだと思う。