衣装を科学する３

たあたんにはピンクの衣装が多い。特にショーでは。前に「何着くらい着替えているか」を科学したときに、ずーっと前から思い出してみても「かなり多いなあ」と思った。ま、もともとが北国育ちの色白の女性だってこともあるんだろうけど、それはあくまでもオフのお話。舞台では精悍になることもあれば黒塗りになることだってある。なのにやっぱり「ピンク」がつきまとう。この傾向はいつごろから始まったのだろう。「その他大勢」よりもちょこっといい衣装を着せてもらえるようになった、雪組へ組替え後から振り返ってみる。

組替え後最初の作品は『花幻抄』東京公演（９１年６月）で、これは中途加入だから別として、次の『ラバーズ・コンチェルト』東京公演（９１年１２月）で早速ピンクが登場した。当時「雪組四天王」（今で言う「同期トリオ」みたいなもんかな）と呼ばれたみゆさん・ゆきちゃん・とどさんと４人の場面があったのだが、そこでそれぞれが着ていたのが「色違いの上着」。緑・青・黄色・ピンクで、他の人は誰がどの色だったか忘れたけど、たあたんはピンクを着ていた。ま、このときはお似合いだったけど。ジュンちゃん（純名里沙）とデュエットで歌うパリの場面があって、なかなか可愛らしいカップルだったのを覚えている。

同じ年の『コート・ダジュール』（同年１０月）のときは、全面的にピンクって衣装はなかった。ただ、舞台の基調が「パステル調トリコロール」だった上に、フィナーレナンバーで「白のスーツ」に「ピンクのベスト」と「ブルーのベスト」にわかれて踊る場面があったのだが、たあたんはもちろんピンクだった。

この後ロンドン公演があって本公演は１回休み（すごろくみたい…^^;;;）。ちなみにこのロンドン公演でも、１人だけではないが「ピンクのエンビ」を着ていた。この年はどちらかというとピンクよりも「水色」に縁のあった年で、『風に吹かれて』（９４年９月・バウ）では「水色のタキシード」、『雪之丞変化』（同年１１月）では水色の？着物、『サジタリウス』のフィナーレは水色の総スパンの衣装だった（結構好きだったなあ）。尤も『サジタリウス』のプロローグの衣装は、みんなお揃いの「サーモンピンク」だったんだけど。

９５年に入ると、ここから「怒濤のピンク大行進!?」が始まる。まずは『バロック千一夜』（９５年５月）。「クラブ・アラビアンナイト」の場面で、黒エンビの下にピンクのブラウスを着ていた。胸からぶら下がったストール…ではないな、あれはマントではないし、いったい何だろう…ま、いいや。それもピンクだった。黒塗りにピンクという取り合わせが何とも奇妙だったように思う。次の『マ・ベル・エトワール』（同年１１月）では、毎度おなじみ「オペラピンクの総スパンのエンビ」という、たあたん以外ではかの麻路さきさんくらいしか着ていないような衣装が登場。な、な、なんちゅう色合いかと、正直言ってビックリしたものだ。この公演、今思えば「極彩色」か「モノトーン」が多かったなあ。ちょっと前までならたあたんも「淡い色合い」が多かったのに、そういう色の衣装はぜーんぶ他の人に行くようになったのも、思えばこの頃からだった…ピンクのエンビにピンクの羽根みながら「何だかなあ…」と思ったものだ。

同じ『マ・ベル・エトワール』でも、翌年４月の地方公演の時にフィナーレで着たのは、大劇場でとどさんが着ていた「紫の総スパンのエンビ」だった。それを見て「何だ、ピンク以外も似合うんじゃない」と思った人もあったという。でも正直言って「色は少し似てた」かも知れない。

９６年はショーなし。輸入物ミュージカルのみだったので、どちらかというと青系統の衣装が多かった…役柄の関係上、全般的に衣装の数は少なかったけど。それでも、この年は芝居でピンクが登場した。『ハウ・トゥー・サクシード』（９６年６月）で、一瞬だけワインカラーのスーツで出てきた場面があったのだが、そのときのカッターシャツが何とサーモンピンクだったのだ…いかにも「色物」のブラットさんらしい服装である。後は『香港夜想曲』（同年１２月・バウ）のときに、黒いタキシードのズボンのベルトと蝶ネクタイがピンクだった。それとＴＣＡスペシャルのフィナーレくらいかな。

９７年は「よーけ、ピンクを見たわー」という感じの年。まずは『サザンクロス・レビュー』（９７年２月）で、プロローグからいきなり「オペラピンク」のジャンプスーツがお出ましになった。おまけに、靴（自前だそうな）までがピンクだった。この衣装は「有り物」だったから仕方がないけど、途中で背負っていた羽根がピンクだったり、タモさん・チャーリーと３人の場面が「紫」系の衣装だったり、「パタゴニア」で紫色のスーツ着てたりで、すっかり「暖色系」が定着。続く『ザッツ・レビュー』（同年８月）は、ポスターで見た「花模様入りのエンビ」が青だったので「これがフィナーレの衣装かな」と思いきや、何とまたしても「オペラピンクの総スパンのエンビ」。楽屋に遊びに来た雪組の下級生に「タータンさん、またあの色着てる。あれって『マ・ベル・エトワール』のときのでしょ？」と言われて「違うよ！新調なんだから、って言ったんです」（by『ザッツ・レビュー』お茶会）。そりゃあ、よーく見ないとわからない程度の違いしかなかったんだから、誰でも間違えるわな…。そしてこの公演の直後のＤＳ『Kojuの森』（同年９月）で、極めつけの衣装が登場した。な、何とあの「アキラ」のボアの付いた上着が出てきたのだ（ちなみに曲は『サザンクロス・レビュー』の主題歌）。ちょっと趣を変えてはあったけど「どう見てもアキラ」。ピンクもここまで来るとご立派なもんである。

雪組に戻って最初の公演は『ＬＥＴ’Ｓ　ＪＡＺＺ』（９７年１２月）で、このときはピンクはなかった。で「やっと傾向が変わってきたかな」と思っていたら…やはり甘かった。次の『ラヴィール』（同年８月）で、その分たっぷりピンクが登場したのだ。まずはプロローグが、薄い目とは言え「ピンクの総スパンのエンビ」。全員ピンクだったとはいえ、またもピンクか、って思った。これだけなら「まあ、いいか」だったのだが、フィナーレ前の「ハウンド・ドッグ」が…「いつもの色の上着にパンツ」だったのである！やっぱり、どこまでいってもこの色が付いて回るのね、って感じだった。ああー。

８年分を振り返ってみて、１６着ほどピンクの衣装が登場した。平均したら１年に２着。他の人と比べてみても、何だか多いのではないかな、って気がする。最初にも書いたように、たしかに似合うのだ。私も嫌いな訳ではない。でも、最近何だか「あんまりピンクばっかりだと、ちょっと釈然としないかな」と思う事が多くなってきた。

こう思うのには理由がある。私は何年か前に、「ソワレ」という雑誌で衣装担当の任田幾英さんのインタビューを読んだことがある。そのときの内容で印象に残っているのが「その生徒のポジションで、フィナーレの衣装の色が決まる」ということ。例えばスパンのエンビの場合、トップなら一番いいのが金（ゴールド）で、白や黒などがそれに次ぐ。２番手の場合は「多く使われるのはロイヤルブルー」。３番手は「紫など」。それ以下だと「水色とか、残っている色を使う」。そのときは「そうか、たあたんも２番手くらいになったら青を着ることになるんだな」と思ったものだ。ところが彼女の場合、ポジションが上がってもあんまり色が変わらない。他の組の下級生の２番手や３番手が、青とか水色とか着ていても、彼女はせいぜい紫どまり。青を着たところなんて見たことがない。まあ、その人に似合う・似合わないというのもあるし、舞台全体のバランスから衣装の色が決められるのだろうから、一概に「おかしい」とは言えないけど、「ちゃんと扱われていないんだろうか」と、ふと不安になるときがある。