天翔ける恋人たち

相変わらずすごい壁紙だ(^^;)。ちょっとおよろしくない素材を使ったので、もしかしてクレームつくかも知れないなあ、とか思う。でもまあ、見る人が見ないと何だかわからないってシロモノに加工はしてみたつもり…え、やっぱりわかる？？　…うーん、ま、いいか（←野放し状態、である…）。

でも何でこの題材か？と思われる方もあるだろうけど、それが今回のテーマである。この夏、たあたんが演じた２組の恋人たち。それも、一方は男で、もう一方は女。こういう体験はそうそうできるものではない(^^;)。そしてその両者―三条英と才谷梅太郎、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェとアンドレ・グランディエ、これがまた、偶然とはいえ実によく似た境遇に置かれていたのであった。

『ベルサイユのばら２００１』大劇場公演をご覧になった方の殆どが、プログラムを買われたことと思う。私もご多分に漏れず初日に買った。で、いつも観劇のお供にしているカバンにつっこみ放し(^^;;)。たあたん出演の公演は毎度この調子なので、おかげさまでプログラムはボロボロになっている。終いには落丁するのではないかと、ちょっと恐れたりしている（なのに、１公演に２冊買ったことはない）。そのプログラムの中程に、「２１世紀、名作へ新たな息吹き」と銘打った座談会が掲載されている。すっかりオスカルムードのノルさんにまだまだスカーレットなゆりちゃん、そして、どこか切なく激しい女性の面影を残しながら、でもいつもの感じのたあたん。どうやら集合日に行われたらしいので、三者三様のその様子が結構興味深い。その中でたあたんが『天翔ける風に』に触れてる箇所があるのだが、初日の前日、職場の近くの本屋で初めてそれを読んだとき、思わず吹き出してしまった…それが例の「私は明日から、才谷梅太郎になります」って部分である。才谷、というにはたあたんのアンドレ、ちょっと深刻さが強めだと思うんだけどなぁ(^^;;)。そうか、英がオスカルで、才谷はアンドレなのか、と頭の中で反芻し…でも、あそこは似てるけどここは違うなあなどと、もうすっかりさいえんすしてしまった、のであった。で、こうやってパソコンに向かっているのである。

同じプログラムの中で林真理子氏が「仲のいい男友だちが、実は自分をずっと愛してくれていたというのは、女が欲する恋の理想の形である」と、書いておられるが、これはズバリ、この両者に当てはまる。アンドレはオスカルの幼なじみであり親友であり、小さい頃からすべてのことを分かち合って生きてきて、それがいつの間にか男女の愛情へと変化した。才谷は英が江戸へ出てきて、幕府の開成所に入った頃からの親友であろう。彼がどういう経緯を辿って英に愛情を持つようになったのかは説明されていないが、あのノリだと、うぶで純粋な彼女にひとめ惚れだったんじゃないかな、などと私は勝手に思っている。

ヒロインたるオスカルと英。どちらも男性と同じように生き、女性であることをある意味捨て去っている。オスカルは絶対主義社会崩壊という情勢に直面し、国家権力と民衆の間で苦悩しながら、自らの歩むべき道を見出していく。英は、男性に混じって幕府の役人を目指す内に様々な思想に触れ、これから先の時代の変革は倒幕にあると思うようになっていく。そのためにおみつを殺したのではなかろうけど(^^;)。そういう、激動の時代にあって男性と肩を並べている痛々しさが、彼女らをして「見た目の強い女」たらしめている。

そして「口先ばかりの男たちなんて、アテにならない」とばかりに暴走する英。おそらく彼女は、共に勉学に励んだ男子塾生たちよりも遥かに優秀だったに違いない。だが、女であるが故にことごとくに不自由さを感じる、それは日本という国のことだからオスカル以上だったことだろう。だから、彼女の理想の中に「女である不自由を乗り越え、いつか訪れる千年の王国を心に抱き続けた」という想いが宿ったのかも知れない。

この、たくましくも美しい女丈夫たちを支え続けた男たち。これがまた結構共通点があったりする。常に彼女たちの側にあり、ふと気付けばすべてをゆだねられる存在。そして、ついには彼女たちから彼らを求めるようになる。やはり男性というのは、大きな支えなのかも知れない。

オスカルを光とするなら、その影であるアンドレ。自分には何ら非のない「身分違い」という壁に阻まれ、オスカルを深く愛しながらもこの世では決して結ばれることはない。それを痛いほどわかっていながら、ずっと彼女の側から離れようとはしなかったアンドレ。オスカルに結婚話が持ち上がったとき、彼は「自分はもはや足手まといなのか」と自問自答する。いつか来るかも知れないと思っていた破局。だが、それは彼の生き甲斐を奪ってしまうことを意味する―オスカルを殺して自分も死のうとまで思い詰めるのも、ある意味当然だった。それを思い止まり、自分の命のある限り彼女を守り抜こうと決心したとき、或いは彼は初めて、身分を超える何かを持ち得たのかも知れない。『ベルサイユのばら２００１』の「今宵一夜」の場面、もう殆ど失明状態で登場するアンドレだが、その見えないはずの両目は、オスカルへの揺るぐことのない愛を湛えて美しく輝いている。

一方、才谷梅太郎。彼は英にとっては光である。だからって、英が影、というわけではないのだけど(^^;)。どこか天使にも似た存在であり、心の闇に迷い込んでいた英を、陽の当たる場所へと導いた才谷。彼が歴史の中で担った役割からすると、妙に肩肘張って生きてる一介の女塾生などは、本当はちっぽけな存在に過ぎない。だが、そんな英を彼は愛した。そして、彼女が思っていた以上に大きな愛情で、彼女を包み込んでいた―たあたんはお茶会で「英はきっとずっと、才谷の掌の中で肩を並べているつもりだったのだと思う」と言っておられたが、大きい、と意識されていなくても大きな、彼はそういう人物だった。

オスカルと英、この２人が何よりも「似て異なる存在」である。オスカルは名門貴族の令嬢であり、周囲の愛情に育まれ、男として軍人として育てられながらも、一方で人間として成長するために十分なだけの教育も受けている。そして、女でありながら男と同じように生きるということに苦悩しつつも、彼女の「性」としての「女性」は歪められることなく、着々と成長を遂げている。

英の場合は、それと事情が異なる。見た目は女、中味も女。女として生きることを誰にも阻まれないにも関わらず、虚栄心の強い母親に「父の無念を晴らすのです」と教え込まれて成長した結果、「女性」として当然持ち合わせていなければならないものが欠落した、いわば未分化な「女性」になってしまった。たあたん＝男役が演じたからそう思ったという部分はあるにせよ、ちょっと「女性」になりきれない人物であることは、原作からも見て取れる。

まあ、一言で言うなら、オスカルはすべての思考が外向的で、英は内向的、ってところだろうか。だから、苦しむ人々を救うために、オスカルは民衆の先頭に立ち、英は、民衆に背を向けて人を殺める（それでいて、自分では「世のためにやった」と思っている）。方法を間違えたというよりは、両者の生い立ちがなせる技、と言えなくはないか。

アンドレはオスカルよりも先に死ぬのだが、実はオスカルに殉じて死んでいくのである。彼女亡くしては生きられないほどに愛し抜いた彼にとって、彼女の死を見るほどつらいことはないだろう。だが、オスカルは歴史の中である役割を背負って生まれてきた人物でもあり、その役割が革命の端緒を切り開くことにあったのだとしたら、そこから先の人生は存在し得ないのである。回りっくどい言い方だけど(^^;)、要するにアンドレ、オスカルの影である以上は光なくしては生きられない。だから、自らオスカルの盾となって先に命を散らせる。宝塚版では「橋の上」という、初演以来全く変わらない死に方ではあるけれど（初めてみたときは「何!?」と思ったなあ…）、今回見ていて、ひとりの女性を全生涯かけて愛し抜いた男の、その愛ゆえに死んでいく壮絶さがヒタヒタと押し寄せてきた。彼のその愛の深さ・大きさをオスカルが思い知るのは、身も心も結ばれた一夜ではなく、この壮絶な死に様を見たときではないだろうか。「何故、ついてきた！」と叫んだ彼女の声の悲痛さが、その心を物語っているように思える。

才谷、実は坂本竜馬も、或いはオスカルと同じように、明治維新の端緒を切り開く役割を果たすべく奔走し、その貫徹を遂げることなく人生を終える。彼の場合、オスカルのそれよりももっと必然的に死が訪れ、その死を越えたところに次の時代が始まる。彼が英に約束した「新しい時代の扉」はしかし、彼の手によってはほんのわずか開けられたにすぎなかった。その扉の向こうに愛した女性の面影を見たのか、十字路に斃れた才谷は、英のいる方角に手を伸ばしていた。寒い牢獄の中で彼と共に歩む未来を夢見る英は、その死を知らない―自分を導いてくれた光が消えてしまったとも知らず微笑む英。その姿は、ようやく開き始めた花のつぼみのように美しい。

ひとり遺された彼女は、だが、生きていかなければならない。そこがオスカルとは違う。才谷は彼女に殉じて死んだのではない。やがて、小雪の舞う世界に戻ってきて才谷の死を知ったとき、英は深く嘆き悲しむことだろう。あの大川の岸辺で、２人で景色に抱かれて生きようと誓ったのに。新しい時代を一緒に生きるはずだったのに、と。

だが、２人もの人間を手にかけた英にとって、ひとりで生きること―愛した人が命を懸けて実現しようとした新しい時代を見届けることは、ある意味彼女に与えられた「運命」であり、かつ「罰」でもあるのだ。才谷によって光を見出すことのできた英は、心の中で「音」を聞くことができるようになった。泣く、笑う、怒るといったごく自然な感情の発露を取り戻したのである。その気持ちを抱いて、彼女は「彼の岸辺」で微笑んで待っているはずの才谷を見つめながら生きていったのだろうか。それとも…。決して語られることのない英のその後を思うと、時代が明治へと変わっていっただけに、何だか切ない気分になってしまうのである。

三条英とアンドレ・グランディエ。どちらも、たあたんによって演じられた役である。今、男役に戻った彼女に、あの激しく美しく切ない英を演じていた面影はない。これまでに演じてきた役と同じように、「男」として相手役をやさしく見つめる眼差しがあるのみである。

別にどこがどう、というわけではないのだけど、何となくそう思ってしまうのは、おそらく彼女自身は意識していないのだろうけど、自ら「女性」として男性に抱擁された、その経験が生かされているのかもな、と感じるからである。ご本人自ら「才谷になります！」って言ってたくらいだから、さもありなん、ではある。特にガラスの馬車のところでよく思い出してしまうのだが、オスカルとアンドレが寄り添って頬を寄せ合う姿を見ていると、この世ではついに結ばれることのなかったもう１組の恋人たち―英と才谷の魂も、きっとこうして「大川の彼の岸辺」で寄り添っているのだろうな、と思えるのだ。或いはもしかしたら、英でもあったたあたんの気持ちの中に２人の悲劇を惜しむ気持ちがあって、その思いまでも込められているのかも知れないな、とも思う。寄り添う２人、それが手焼き煎餅の奪い合いであったとしても(^^;)。

オスカルは１７５５年生まれ。アンドレは１つ年上なので１７５４年生まれ。フランス革命で命を落としたとき、オスカルは３３歳、アンドレは３４歳（推定）であった。英は架空の人物である故に年齢は不詳だが、２０年前に別れた父のことを覚えていたのだから、３０歳前後だと思われる。才谷梅太郎＝坂本竜馬は１８３５年生まれ。殺されたのは３３歳（数え年）。ちなみに、竜馬とかのエリザベートは２つ違いで、エリザベートの夫フランツ・ヨーゼフは、オスカルと同じ年齢のマリー・アントワネットの兄の曾孫にあたるので、つまり英は、オスカルからすると曾孫くらいの世代にあたる、わけである（ってことは英、ルドルフの母になれる年齢なのね…^^;;;）